偶然の億万長者で逃亡犯という危険な生き方

○偶然にやってきた危険な生き方

60万円の融資を申し込んだら、6億円が振り込んであった………なんてことがあったら、どうしますか? いや、正直な話。「あのう…間違いじゃないかと思うんですが」と銀行の係員に素直に言いますか? それとも大急ぎで引き出して、大金を抱きしめて、今までの生活にバイバイしますか?


とりあえず、より映画やマンガになりやすい展開は、間違いなく後者です。そしてこういう生き方を「living dangerously(危険に生きる、危険な生き方、危険な生き様)」と英語で言います。といってもこれは、ニュージーランドで実際にあった話なのです(もっとも、6億円を前にして素直に返したカップルのその後、というストーリーはそれはそれで観てみたいですが)。


BBCやCNNの報道によると、ニュージーランドで暮らしていたリオとカラのカップルは、ガソリンスタンドの運営資金として銀行に融資を申し込みました。申し込んだ金額は1万ニュージーランド・ドル(約60万円)。しかし5月5日に銀行担当者のミスで振り込まれた金額は、実に約6億円(1000万ニュージーランド・ドル)だったと。


地元テレビ局によると、2人のガソリンスタンドは翌6日にいきなり「休業中」となり、そして7日に2人はふっつりと姿を消したのだそうです。


「ウェストパック」というオーストラリアの大手銀行は、ここで警察に通報。警察は(銭形警部で有名な)インターポールに捜査協力を依頼。リオとカラは、国際指名手配犯となってしまったというわけです。


○まるで映画のような


ひょんなことから大金をつかんだ男女が、手に手をとっての逃避行。いやあドラマです。CNNによると、2人は中国まで逃げたという情報もあるそうで。銀行いわく、奪われたのは6億円全額ではなくその一部だとのことですが。


こういう状況をズバリ表す英語表現があります。「They took the money and ran=金をとって逃げた」という。


なんだかコーエン兄弟の映画のような。あるいはその昔「トルー・ロマンス」という映画があったのですが、あんな感じ。あるいは岡崎京子のマンガのような。「俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)」までいってしまうと結末が美しくも悲劇的すぎるので、そこまでならないことを祈りますが。



ちなみにご紹介したCNNもBBCも共に見出しに「Accidental millionaire=ひょんなことから百万長者に」という同じフレーズを使っていたのが、なんとなく面白く。


スラムドッグ$ミリオネア」のタイトルは記憶に新しいし、加えて80年代の映画で「Accidental Tourist(邦題は「偶然の旅行者」)」というのもありました。その2つの映画のタイトルが、CNNやBBCで見出しをつける人の念頭にあったのかは分かりませんが、内容といい、見出しといい、何とも映画っぽい暇ダネです。


○人間の過ち


ここから英語解説です。大金を奪われたウェストパック銀行は、今回の事件は「行員のhuman error」が原因だったと発表しています。


最近では、4月の北朝鮮のミサイル発射に先立って防衛省が「発射された模様」と誤発表してしまったのは「人為的ミス」によるものだと防衛省が発表しましたが、あの「人為的ミス」がまさに「human error」。「human mistake」でも合ってますが、「human error」の方が熟語的な感じがします。


ついでに言うと、リオとカラのカップルがやったことは上記したように「took the money and ran(金を奪って逃げた)」なのですが、この「run(ran)」という基本的な単語は、多種多彩な意味をもつことのできる強力な奴で、将棋の 「歩」みたいなものです(意味は「歩」ではなく「走」ですが)。


「run」という単語の多芸ぶりは前にこちらのコラムでもご紹介しました。根底の意味に「動く・動かす・走る・走らせる」など「動・走」の意味がある表現ならば、かなりの度合いで「run」を使うことができるのです。


この事件を伝える記事にも、たとえば2人が「they ran a service station」とあり、これは「ガソリンスタンドを経営していた」という意味。そしてしつこいですが「they ran」だったら「2人は逃げた」。「they ran away」でもOKです。「2人は逃亡中だ」と言いたいなら「they're on the run」という表現もあります。


ちなみに、ポール・マッカートニーの大ヒットアルバムに「Band on the Run」というのがあるのですがこれは……っと、おっと。話がいよいよ関係なくなってきました。なので本日はこれ切りにて。I've got to run(もう行かなきゃ)。

    (gooニュース・ひまだね英語)