言いたい! テレビ画面の「アナログ」表示

テレビ画面右上に映る「アナログ」の文字表示。「『このテレビではダメ』と言われているよう」「邪魔だ」などの声も聞く。アナログ放送がデジタル放送に完全移行する2011年7月24日まで、2年半を切った。画面脇の「アナログ」表示、どう思います?【中川紗矢子】


 ◇技術の恩恵、広報すべきだ−−小池正春さん(放送ジャーナリスト)


 「アナログ」表示は確かに、テレビの買い替えをせかせるために出しているのだと思います。デジタル放送用のテレビに買い替えてもらわなくては、アナログ放送が止まった時に、本当にテレビが見られなくなる人が大量に出る可能性があるからです。移行実施の前年くらいになれば、買い替えも一気に進むだろうと、テレビ業界も行政も思っていたのですが、そうならないかもしれないという不安が生じ、「もう時間がないよ」「買ってね」と、アナウンスしているのでしょう。表示が焦りの象徴であることは間違いない。


 しかし、表示だけしてもダメですよね。「アナログ」という文字だけはパッと出ているけれども、あれだけ出していると脅かされているような印象を持つかもしれないですね。すぐに見えなくなるわけではなく、11年7月24日までは大丈夫だとか、テレビを買い替えなくてもデジタル化のチューナーを購入すればアナログテレビでも地デジを楽しめる――といった情報も伝えるようにした方がいいですよね。対応する方法はいくつもあるので、そんなに不安がらなくても大丈夫ですよ、というアナウンスが必要なのではないかと思います。


 デジタル化を巡っては、議論や批判もありますが、デジタルに移行してしまえば、やっぱり移行して良かったな、と思えるだけの恩恵は十分あります。インターネットともつながりますし、天気予報もいつでも見られる。移動中の車の中でもきれいに見られるし、リモコンで双方向のやり取りもできる。そうした新たなサービスがたくさん増えて、便利になると思います。デジタル化の技術は、日本は世界の中でもリードしていますから、その素晴らしい技術をみんなで盛り上げていくという意識を、もっと共有できるように広報していくべきでしょう。視聴者を困らすために地デジ技術があるわけではないのですから。


 今後は民放連やNHKで地デジ関係の特番をつくり全国放送するとか、新聞の全面広告で説明するとか、あらゆる機会を通して地デジのプレゼンテーションをしていく必要があると思いますね。「ネットで情報提供している」というのではダメ。年配者のなかにはネットをやらない人もいるわけですから。


 地デジスタートが目前に迫るにしたがって、経済的事情で買い替えられない人はどうすればいいのか、あるいは山間地などデジタル放送が映らないエリアの人はどう対応すればいいのか――という議論が真剣味を帯びてきました。けれども、購入できない層には行政などが安い専用チューナーを配布するといったことを検討してもいい。見えない地域の人には、光ケーブルなどを使った対応策も考えられています。地デジ移行に伴う諸問題について、解決するためのアナウンスをたくさん流してほしいですよね。上から目線で「こうじゃなきゃダメ」というのではなく、視聴者からの不安の声に耳を澄まし、理解を得るための努力が大事だと思います。


 ◇廃棄問題にも目を向けて−−山田美保子さん(放送作家


 放送作家の立場としては、画面の端に出す「CMの後は○○です」といったサイドスーパーに、「アナログ」という文字がうっすら重なるのが腹立たしいですね。VTRを見る時に、スタジオにいるタレントを映すワイプという小さな画面を使う場合も、アナログ表示がどなたかの顔に重なるわけです。そういうことを思うと、なんて邪魔なんだろう、いかがなものか、と思いますね。


 デジタル化へのカウントダウンなんだ、と思えば、もう仕方ないです。でも、アナログ表示が何の意味で出ているのかとか、テレビが変わるとか、状況を分かっていない人も多いと思います。そういう方たちはきっと「文字が出たけど、何だろうな」くらいにしか思っていないと思います。なので、あの表示の効果については、疑問を感じますね。「買い替えをお急ぎください」というようなメッセージには、なっていないような気がします。


 テレビ各局は、デジタル化についてコマーシャルなどでPRしていますし、アナログ表示をしなくても、コマーシャルで十分じゃないかな、と。一方で、お年を召した方、特に1人暮らしの方には、指導のような、正確に伝わる対策が必要だと思います。消火器の悪質点検ではありませんが、詐欺とかが出なければいいけれど、と思っています。


 デジタル化については、賛成せざるを得ないですよね。テレビが、生活により密着したメディアになる最も大きな転換期になると思いたいです。不景気で、テレビ業界全体がガクッと悪くなってしまいましたが、だからこそテレビ界は一丸になって頑張っていかなくてはいけないのではないでしょうか。デジタル化は、起爆剤という意味では、いいチャンスなのかな、と思います。デジタルに完全移行される11年7月24日は、お祭りのような、すごく記念すべき日になるでしょう。


 ただ、テレビの買い替えが促されていますが、新しいものを買った後のゴミのことはあまり言われていませんよね。私は、あのアナログ表示を見るたびに、今までにどれくらいゴミが出たのだろうかとか、本当のところはどれくらいの人たちがまだ買い替えていないのだろうかとか、ものすごく考えさせられます。


 もしかしてテレビは、60代以上の人たち、リタイアされた方たちの情報源として生き残れるのかなと期待しています。でも、その人たちに、デジタル化によって新しい機能がいろいろ付いてくることに対して「テレビにこんなこと求めていないんだよ」「面倒くさい」って思われるのは困りますよね。だから、単機能のものがあってもいいのではないかな、と思います。今後は、カルチャースクールや教育テレビなどで、デジタル放送を楽しむための講座などが出てきたりするのかな、と。デジタル化は、一般の人には分かりにくいので、そういう講座があったら私も行ってみたいです。


※確かに「このテレビではダメ」と

   言われてる気がします。

   お袋も「早くテレビを変えなくちゃ」と

   焦り気味に言ってます。

   老人には「ダメ」ということしか頭には

   残らないんだよね。